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高松高等裁判所 昭和36年(ネ)308号 判決 1963年10月21日

控訴人(原告)

久米亀野

被控訴人(被告)

(山川町教育委員会訴訟承継人)

徳島県教育委員会

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す、被控訴人が控訴人に対して昭和三〇年四月一日付でなした免職処分は無効であることを確認する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、なお右処分が無効でないとすれば右請求趣旨第二項に代えて「被控訴人が控訴人に対して昭和三〇年四月一日付でなした免職処分を取消す」との判決を求めるとのべ、被控訴代理人は主文と同じ判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出・援用・認否は、次に附加するほかは、すべて原判決の事実摘示と同一であるからその記載を引用する。

(一)  控訴代理人の陳述。本件免職処分は現在の全国的な教職員の不適格性を理由とする免職処分の実例、慣習、世間の良識等からみて極めて苛酷、不公平な処分である。すなわち仮りに原判決が不適格の理由として挙げているような事実があつたとしても、それらの事実はいまだ教員としても、それらの事実はいまだ教員としての致命的な欠陥というには足りず、この程度ならむしろ譴責その他免職に至らない程度の懲戒処分に相当するにすぎない。それをいきなり免職処分にしたことは明らかに不当、不法な処分であり、解雇権の乱用である。したがつて本件処分は無効である。

(二)  被控訴代理人の陳述。本件免職処分は当時の山川町教育委員会がなした処分であるが、その後昭和三一年一〇月一日地方教育行政の組識及び運営に関する法律の施行に伴い、徳島県教育委員会の行つた処分とみなされて同委員会に引継がれた。よつて本訴を同委員会において承継する。

(三)  控訴代理人は甲第一〇号証を提出し、証人新井幸弘、同為実謙一、同荒井美代野、同松本富貴子、同鹿児島豊一、同川村昭子、同釜床幸恵の各尋問を求め、控訴本人尋問の結果を援用し、乙第一八、一九号証の各成立を認めた。

(四)  被控訴代理人は乙第一八、一九号証を提出し証人大谷福一同田中久夫、同安部忠明、同近藤一雄、同近藤肇、同長江義、同雑賀二良、同西浦栄一、同福原未五郎、同竹部ミツエ、同三河易代、同遠藤多満子、同坪井ツネ子の各尋問を求め、甲第一〇号証の成立を認めた。

(なお、原判決記載の原告申請証人のうちに近藤一雄がぬけているからそれを追加する。)

理由

一、控訴人は、(1)本件免職処分はその根拠法条に重大な誤りがあるから無効である、(2)仮りにそうでないとしても山川町教育委員会は本件免職の決議をしていないから、本件免職処分は無効である。(3)仮りに免職の決議があつたとしてもその決議をした委員会の議事手続に瑕疵があるからそのような決議にもとずく免職処分は取消されるべきである。――このように主張する。この主張に関する当裁判所の認定判断は原判決の理由の中の冒頭から「第二、免職の決議について」までに記載されているところと同一であるから、その記載を引用する。したがつて右主張はいずれも採用しない。

二、不適格性の有無について

(一)  被控訴人が控訴人を教員として不適格であると判断した根拠として主張する個々の事例に対する認定判断は、原判決がその理由の第三の(イ)ないし(ヌ)(ただし(ト)と(リ)を除く)に示す説示と同一であるから、右記載を引用する。証人新井幸弘、同荒井美代野、同三河易子、同川村昭子、同釜床幸恵の各証言および当審における控訴本人尋問の結果のうちそれぞれ各認定に反する部分は、原判決援用の各証拠ならびに当審における証人福原末五郎、同竹部ミツエ、鹿児島豊一、同雑賀二良、同長江義、同西浦栄一、同近藤肇、同安部忠明、同大谷福一、近藤一雄同田中久夫の各証言と対比し信用しない。その他に右認定に反する証拠はない。(ト)の昭和二九年九月一一日大谷教育長代理が来校して控訴人に面会を求めた際のことは、控訴人が授業中であつたのであるからそ時直ちに面会に応じようとしなかつたことをあながち非とすることはできず、その控訴人の態度を不適格を認定する事由に加えるのは適当でない。(リ)の武田方の飼犬のことも、武田方の犬の扱い方、訴訴人が咬まれたことに関する措置について適切を欠く点も認められ、控訴人のみを非難するのは妥当でなく、控訴人の不適格を認定する事由とするのは相当でない。要するに原判決第三の(イ)ないし(ヌ)のうち、(ロ)の虚偽の理由で早退したとの点および(ヘ)、(ト)、(リ)、を除く、その余の事実が適格性を判断する資料とされる。

(二)  成立に争いのない乙第一八号証、当審および原審における証人西浦栄一、同近藤肇、同長江義、同雑賀二良、同近藤一雄、同田中久夫、同大谷福一、同安部忠明の各証言、を総合すると次の事実を認めることができる。すなわち、控訴人が本件免職処分を受けるに先だつ約一〇年間において、控訴人の上司であつた各校長や教育委員会の管理者が控訴人の校長ないし同僚に対する態度、勤務状態、授業態度ことに児童に対する愛情等の点について控訴人に欠けるところが多いと判断していたこと、その間控訴人に対する父兄の評判もこのましいものでなく再三控訴人の転出が望まれたこと、控訴人が短い期間に度々転勤したこと、以上の事実が認められる。証人新井幸弘、同川村昭子、同釜床幸恵の各証言のうち右認定に反する点は信用しない。証人為実謙一、同鈴江伝の各証言は右認定に反しない。

(三) 右(一)、(二)に認定した事実を総合して判断すると、控訴人は教員として必要な適格性を欠くものと認めざるをえない。控訴人主張のように本件免職処分が控訴人個人に対するいわれなき悪意ないし差別待遇の結果であるとはとうてい解しがたい。またそれら個々の事例には単一では免職の事由とするに足りないものもあろうが、それが積重ねられて全体として評価されるときは、たんに免職に至らない程度の懲戒処分をもつて足ると考えることはできない。したがつて本件免職処分をもつて、不法不当の処分であり、権利の乱用であるとする控訴人の主張は採用できない。成立に争いのない甲第六号証の二も右認定に反しない。また被控訴人が本件処分に先だち極力控訴人の管外転出ないしは自発的退職をはかつたことも右認定の防げとはならない。

なお控訴人は昭和二九年一〇月六日大谷教育長代理等の斡旋で既往のことは問題にしない旨の話合いが田中校長との間にできたと主張するが、原審証人田中久夫(第一回)の証言によつて成立を認めうる乙第四号証の二、原審証人田中久夫(第一回)、同大谷福一(第一回)、同渡部俊向の各証言からすれば、それは控訴人が従前の態度を改め校長の指示に従い職務に専念することを前提とするもので、無条件に将来において処分の対象とはしないことにきめたというわけではないことが認められるから、右主張は採用しない。また前記の適格性を理由ずける具体的な個々の事例はいわゆる間接事実であつて当事者の主張がなくとも証拠により認定し判断の資料となしうるから、控訴人の民事訴訟法第二五五条に関する主張は理由がない。

三、以上説示のとおり、被控訴人のなした本件免職処分は適法、妥当なものであつて、控訴人の請求はいずれも理由がない。したがつてその請求を棄却した原判決は相当であつて本件控訴は棄却をまぬがれない。

よつて控訴費用の負担について民事訴訟法第八九条第九五号を適用して主文のとおり判決する被控訴人の承継の申立は相当であるから許容される。

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